プロジェクト / 2022
食物の影
SYNCHRONICITY:ヴィラ九条山30周年記念展
- With
- フェリペ・リボン、関口涼子
- 担当
- キュレーター
- 会場
- 京都芸術センター、京都、日本
- 会期
- 2022年3月13日 – 4月24日
2012年から2021年は、人々が既存の価値観や社会構造に対して疑問を投げかける引き金となる要因と事件が世界中に溢れていた。差し迫る気候変動の問題や拡大し続ける貧富の格差は、資本主義の限界や消費方法について人々に再考を促し、人種やジェンダーを理由に繰り返される暴力や差別を許してきた社会構造に対してはBlack Lives Matterや#MeTooなど国境を越える抗議運動が起きた。パラダイムシフトの入り口で変化を求める声と現状を保守する声の間で社会が分断化する現象が起きたが、地球規模で起きる数々の問題に対峙するために、多様な意見を汲みながら共同(コラボレーション)で問題解決の糸口を探る事を重要視する流れも見られた。ヴィラ九条山でも、フランス人と日本人が二人1組で行う共同研究を支援するDuo Programが2012年に始まっていた。
このような10年間を振り返り、2012年から2021年のヴィラ九条山レジデンシー受賞者の中から作家·翻訳家である関口涼子とデザイナー·写真家のフェリペ·リボンの研究と作品を紹介したい。関口とリボンは、2016年にヴィラ九条山に滞在し「 L’Ombre de la nourriture/食べ物の暗部」と題した研究プロジェクトに取り組み、私たちの食事の目に見えない部分を巡る考察をした。彼らのプロジェクトは、食事という対象を通して、今まで当たり前とされてきた認識について問いかけるものであったが、関口とリボンという専門分野と文化的背景や常識が異なる二人が共同で取り組む事によって、驚きや意外性に満ちた発見を導き出している。
彼らは食文化があらゆる意味で過渡期にあるという認識のもと研究をしていた。例えば、近い将来食べられなくなる食べ物、失われていく職人技法、製造方法などを調査した。一方で、彼らの研究は、食べ物の意外な一面が、私達の精神性と深く繋がっている事をも示唆している。
彼らの探求の足跡を、展示室の四つの壁に展示する。部屋の中心には、探求の末に見えてきた「食べ物のポートレイト」を写真とテキストによって表現した作品を展示する。リボンによって捉えられた、暗闇に浮かび上がる食べ物の写真では、普段見慣れた食べ物が不思議な妖怪のようにも見える。一方で関口のテキストでは、我々の食べ物に関する固定概念を覆す言葉が並べられている。
研究を進める彼らの眼差しは、時には社会学者や文化人類学者、考古学者のようなものだった。しかし、今ここで彼らが発表するのは調査で集積した資料や知識ではない。彼らが創り上げたのは、我々一人一人が、持っている固定概念についてユーモアと驚きを持って対峙し、内省できる空間である。
文:天田万里奈